EVとなっても"らしさ"はあるのか!?日本新導入の600eを500eと共に検証してみた!

フィアット/アバルト500eに続くニューモデルとして、セイチェントことフィアット600eが日本に導入された。500シリーズとは出自が異なるだけに、その雰囲気や走りにフィアットらしさがあるのかが気になるところ。500eと共に600eを検証する。※Tipo399号(2024年11月6日発売)に掲載の記事となります。

EVとなっても"らしさ"はあるのか!?日本新導入の600eを500eと共に検証してみた!

欧州の自動車メーカーの大半が試練に晒されている。EVの市場が考えていたほどに拡がらず、EVの開発に多額の投資をしてきた各社が、方針変換を余儀無くされつつあるからだ。
EUにおける政策が、化石燃料を使う自動車の販売を早期に規制あるいは禁止までに至る流れにあった中で、欧州の自動車メーカーは、それに沿った方向へ進まざるを得なかったのはわかる。
ただ、ユーザーサイドからすれば、ICEに対して高い車両価格には補助金がなければ、と考えてしまうのはもっともだし、充電インフラの充実も必然なわけで、実情は幾つもの壁が立ちはだかる。
フィアットはスモールカーを主力とするだけに影響も大きく、ステランティスのタバレス会長が、市場のEV移行の鈍化は自動車メーカーにとって損失だと語っているのは、EVとエンジン車の双方を開発し続けなければならず、より負担が増すからという話しだ。

この点からしても、フィアット600eは、ステランティスの中にあるブランドとして、グループPSAがe2008用などにすでに開発し製品化していたCMF2プラットフォームがあったことで、開発の負担は相当に軽減されたと思う。ただ、同じプラットフォーム、さらに同じ電動駆動システムを使ったものとなれば、走りの質、味等に差別化をもたらすのは難しくなる。そもそもBEVは、日常走行域の中で走りに個性を表現するのはICEより苦手だ。

といったことを思い浮かべながら、600eを受け取って走らせた途端、ちょっと考え込むと同時に笑ってしまった。たしかに見た目はまごうことなきフィアットだ。着座して前方に広がるインパネの造形やら色使い、雰囲気までも500eとの兄弟あるいは血縁関係を強く感じさせるのだが、走り出すと、この2台、違うところで育ってきたんですね、ということが知れてしまうものだった。

ただ、それはダメという意味じゃない。洗練された感もあり、乗り味はフランス車の如きだ。誤解を恐れずに言わせてもらうならば、多少のテイストの差はあるにせよ、プジョーe2008をドライブした際の印象ともダブる。実際、プラットフォームからパワートレイン系までが基本共通なわけで、乗り味が似通ってしまうのは当然のことではあるのだけど。ちなみに、モーター出力に関していえば、現行のe2008が136ps、フィアット600eは156psでより高出力ということになるが、現地においてマイナーチェンジした新型e2008はやはり156psで同一スペックとなった。

走りの方向性を知る上でわかりやすいのは、ドライブモードでスポーツモードを選んだ際でもモーターのトルクを強調するような荒々しい制御にならないこと。その上で、回生ブレーキも、法規上のマイナス0・07Gでブレーキランプを点灯させる領域までには、Dレンジではほとんど入らない。Bレンジを選択すればもちろん回生ブレーキの効きは増すが、それでも500eのDレンジよりも回生における減速度は低いくらいだ。こうした走りの制御、考え方に統一性がまだ乏しいあたりに、多ブランドでBEV化を急いできたステランティスの開発体制が見え隠れする。

でも、走りがツマラナイのかといえば、これもまたちょっと違う。いつものようにたっぷり箱根のワインディングも走らせてきたが、600eの場合、BEVの前輪駆動車にありがちな前輪接地荷重の不足感がなく、舵がしっかりと効く感じと、トラクションへと変換させていく感覚を備え、ドライバーの意志に忠実かつ安定して曲がっていく。つまり、ソフトライドでいて、要求には応えてくれるのだ。もっとも、それもe2008に近いが、600e はなんだか優しそうな雰囲気の見た目や走りの中に、実は芯の強さがあるのが個性なのかもしれない。

せっかくなので、電費についても触れておくが、e2008でもそうだったが、このパワーユニット系の電費性能は優秀だ。今回もワインディングの走りを含めて8km/kW台を越える平均電費を得ている。駆動用バッテリー容量は54kWh、WLTC モードで一充電距離が493kmと公表されているが、普通に走らせてもその9割といった数値が期待できそうだ。

フィアットらしいポップでシンプルなテイストの室内。丸型のメーターラスターや2スポークのステアリングは、初代セイチェントをモチーフとしたデザイン。
メーターは7インチ の液晶パネル。グラフィックデザインの変更も可能。
エアコンやオーディオの他、各種設定は10.25インチの このインフォテインメントパネルから操作する
センターに大きな収納ボックス。
ドライブモードはエコ/ノーマル/ スポーツの3タイプから選べる。
F I ATのロゴが刺繍とエンボスで加工されている、ホワイトのレ ザーシートがポップで室内の印象を明るくしてくれる。運転席の6ウェイのパワーシートは、マッサージ機能付き。
リアの居住性は、実用的なスペースが確保され良好だ。
電動開閉式のリアテールゲートが標準装備。 リアシートは6:4の分割可倒式で、倒したときには使いやすいよう フルフラットになるように設計されている。
グロスブラックのアクセントを取り入れた、18インチのアルミホイール。

【specification】FIAT 600e

  • グレード グレード La Prima
  • 全長(mm) 4200
  • 全幅(mm) 1780
  • 全高(mm) 1595
  • ホイールベース(mm) 2560
  • トレッド 前(mm) 1535
         後(mm) 1525
  • 車両重量(kg) 1580
  • 最高出力(PS/r.p.m.) 156/4070〜7500
  • 最大トルク(kg-m/r.p.m.) 27.6/500〜4060
  • 総電力量(kWh) 54.06
  • 一充電走行距離(Km) 493
    駆動方式 FF
  • サスペンション 前 ストラット
            後 トーションビーム
  • ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク
         後 ディスク
  • タイヤ  215/55R18
  • 車両価格(万円) 585

その600eに対し、これが兄弟? 血縁? と思わせるような、違う走り感をもたらすのがフィアット500e であり、そこにさらにスパイスを効かせたアバルト500e である。そもそも以前のフィアット500に対しては、あの2気筒エンジンくらいのチープ感が好ましいと思っていたところもあったのだが、どうして500e に乗ってしまうと、むしろ小さなクルマこそBEV の特性が強く活かされると思えてくる。

静かで加速は滑らかで力強いし、バッテリー搭載位置の関係から重心が低く、サイズから想像するより車重も重いため、乗り心地にも重厚感が備わっていたりする。見た目はフィアットのアイコン的に500のイメージを頑なに守っているが、乗れば完全にクラスが違うくらいに上質なのだ。ただし500e は、600eとは違い、そこに本来のフィアット流の走りの思想が詰まっているのだと感じさせる。なによりもドライバーの意志の尊重が、駆動制御に現れているからだ。
 
モーターは118psで、加速力そのものはBEVとして大人しい部類だが、アクセルワーク
の反映を重視する。ドライブモードによるが、ガッツリ強い回生ブレーキが効かせられる上に停止までをカバーできるのだ。つまり、緊急時の要ブレーキを除けば、完全なるワンペダルドライブを可能にしている。個人的にはブレーキランプの点灯が頻繁になるのであまり好むものではないが、慣れるとイージーでいて自在感ある走りを楽しめるのは間違いない。そして、これがワインディングともなると、コーナーへのアプローチでもブレーキペダルを踏むのもごく僅かで済んだりして、リズミカルな走りを自然に出来てしまったりするのだ。これならブレーキパッドも減らないだろうな、などと思わせつつ、地にしっかり足がついた感覚でスイスイと曲がっていくのだった。

最高出力は118ps、バッテリー容量は42kH 、最大航続距離は335km。
ソフトトップにはユニークなメーカーロゴ(FIAT)がプリントされる。
ダイヤモンドカットされた17インチホイール。タイヤサイズは大きいが、乗り心地は快適だ。
シンプルなデザインとするだけではなく、異なる素材を巧みに組み合わせ、上質感も演出する。 2本スポークのステアリングは、ヌォーヴァ500がモチーフ。
センターコンソールにはドライブモードの切り替えスイッチなどがレイアウトされる。
視認性に優れた7インチの液晶 メーターを採用。
FIATのロゴがエンボス加工されたレザーシートを標準装備。
リアシートは大人が乗るには頭上足元共に狭い。

【Specifition】FIAT 500e

  • グレード Open
  • 全長(mm) 3630
  • 全幅(mm) 1685
  • 全高(mm) 1530
  • ホイールベース(mm) 2320
  • トレッド 前(mm) 1470
         後(mm) 1460
  • 車両重量(kg) 1360
  • 最高出力(PS/r.p.m.) 118/4000
  • 最大トルク(kg-m/r.p.m.) 22.4/2000
  • 総電力量(kWh) 42
  • 一充電走行距離(Km) 335
  • 駆動方式 FF
  • サスペンション 前 ストラット
            後 トーションビーム
  • ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク
         後 ドラム
  • タイヤ  205/45R17
  • 車両価格(万円) 603

ベースの素性がここまで良くなってしまうと、アバルトはどうすればいいのか、という話になるわけだが、モーター出力を155psまで高めるとともに、ドライブモードでもっともスポーツ寄りのスコーピオントラックを選べば、アクセルレスポンスは、駆動系はこれでダメージ受けないのだろうか? と心配になるくらいの瞬時の強烈なトルクの立ち上がりを与えるといった、わかりやすい動きと速さが加えられている。

痛快と粗暴のギリギリの間みたいな速さではあるが、それもアバルトらしさなのだと思う。そこに、エンジンの排気サウンドを模してスピーカーから奏でるレコードモンツァが加わって、新世代のアバルトマジックの完成となる。

基本的なデザインはフィアットと同じだが、アルカンターラの資材やブラックの色使い、 3本スポークのステアリングなど、スポーティな演出がなされている。
10.25インチのマルチファンクションディスプレイ。
メーターもアバルト専用のグラフィックが採用される。
ブラッ クをベースに蠍のエンボス加工とブルー&イエローのステッチで、 スポーティさを全面に押し出す。
リアシートは5:5の分割可倒式を採用。スペースはミニマム。
バッテリー容量はフィアットと同じ42kWhだが、最高出力は155psまで高められ、 航続距離は303kmとダウン。
リアに収められるサウンドジェネレーター。レコードモンツァの音を室内外に発する。
18インチホイールと専用タイヤを装着。

これにはアバルトの苦悩も偲ばれたが、500にハイブリッド仕様が登場することになったなら、アバルトのエンジンモデルの復活にも期待してしまいそうだ。どちらが環境に優しいかはともかく、BEVとICEが選べるとなればより楽しみが増すのだから。

【Specifition】ABARTH 500e

  • グレード Turisomo Cabriolet
  • 全長(mm) 3675
  • 全幅(mm) 1685
  • 全高(mm) 1520
  • ホイールベース(mm) 2320
  • トレッド 前(mm) 1470
         後(mm) 1460
  • 車両重量(kg) 1380
  • 最高出力(PS/r.p.m.) 155/5000
  • 最大トルク(kg-m/r.p.m.) 24.0/2000
  • 総電力量(kWh) 42
  • 一充電走行距離(Km) 294
  • 駆動方式 FF
  • サスペンション 前 ストラット
            後 トーションビーム
  • ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク
         後 ディスク
  • タイヤ  205/40R18
  • 車両価格(万円) 645

Text : 斎藤慎輔 Photo : 内藤敬仁
Special Thanks : ステランティスジャパン
フィアット Tel_0120-404-053 URL_https://www.fiat-auto.co.jp
アバルト Tel_0120-130-595 URL_https://www.abarth.jp