【モデルカーズ】認めたくない……けど行き着く先は空冷911!?【Porshe 911 GT2(Type993)】
イタフラ、アメ車、日本のスポーツカー、それぞれ「俺はコイツに一生乗る」なんて言ってたクルマ好きの仲間と、久しぶりに再会したら、そやつが「やっぱり行きつくところは空冷の911、しかもRRに限るだろ」などとノタマって、911教に宗旨替えしていた――なんて経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。
もちろん、本当に空冷の911を良いと思えない、性に合わないという方も居られるかもしれないが、ほとんどのクルマ好きにとっては一度乗ってしまうと抗えない魅力がある。クルマ好き=機械好きと定義した場合、あの精密観と金属感、よくも悪くも無慈悲なまでの冷徹さに“良いもの感”を覚えるなというのは無理な話。それでいてエモーショナルな一面も持ち合わせているのがまたタチが悪い。「終(つい)のクルマは911に」的な声もよく耳にするのも何となく頷けてしまう。

1964年に発売された911は現在に至るまで、エンジンという重量物を車体後方に置き、それが最大の魅力である一方、万人にとって安全に運転できるクルマにするという目的に対しては最大の障害となってきた、的な話はよく耳にする。その対策として、重量配分に工夫を凝らし、4輪駆動車を追加し、サスペンション形式を変更したりと進化を続け、今や911は誰にでも安全に運転できる世界一のリアエンジン車になった。

だが、それはあくまで量産版の911に限っての話。時にポルシェはオールマイティでは無い、例えば快適性や安定性とトレードオフにして、“圧倒的に速く走る”ことを目的とした準競技用のホモロゲーション・モデルを911のラインナップに設定してきた。古くは初代に設定された911RやカレラRS2.7などが思い出されるが、以降はホモロゲーション・モデルと言っても公道走行が不可能な車両も多く、クルマ好きが憧れるロードゴーイング・レーサー的な911が不在になった時代もあった。
万人向けの911とそうじゃない911と
そんな911の歴史の中にあって、最後の空冷エンジン世代であり、FIAの定めたGT2カテゴリーを満たすホモロゲーション・モデル、しかも57台と極少数のロードカーも製造されたということで、近年その市場価値がトンデモないことになっているのがここに紹介するメイクアップがモデル化のモチーフに選んだ911(993)GT2である。

993GT2は簡単に言えば、安全に速く走るために4WDとした911ターボから、前輪の駆動システムを外し、さらにエンジンパワーを 30~40馬力ほど上げたモデル。軽量化のために後席や快適装備の類をオミットする一方でブレーキのキャパシティアップやサスペンションの強化が行われている。そして何よりも外観上のビス留めオバフェンやエアスクープを備えたリアウィングが強烈な印象を残す。
モデル/ミニカーの判断基準となるパネルラインとは

モデルは実車を徹底的にリサーチ、取材して3D CADで原型を設計。それを3Dプリンターで出力したものをマスターにレジンを使って複製したものに塗装や細かな部品を装着している。モデルの良し悪しを判断する材料として、良好なプロポーションや細密なディテール表現、そして仕上げの清潔感というのはよく言われるが、もうひとつ注目して欲しいのが、パネルラインが細く深く彫られているか、という点。パネルラインというのは、ドアやエンジンフードなどの開閉部の分割線のことである。
パネルラインはモデル側では「溝」になるが、生産するための型では反転されて「ヒレ」や「隔壁」のような形状となる。細く深い溝をモデルで再現しようと思うと、型側は隔壁をより薄く、背高に造形する必要がある。ちなみにメイクアップ製品の場合、シリコン型にモールドされた隔壁の幅は0.2mm程度しかなく、非常にもろい。その隔壁が少しでも破断したら、パネルラインが分断してしまう。それを避けるために、ひとつのシリコン型で製造するのはわずか10台程度として、次から次へとフレッシュなシリコン型を用意しているのだ。ひとつのシリコン型で数百台製造するメーカーもあるが、その場合は隔壁を太く背を低くすることによって型の耐久性を上げているが、そのため、モデル側の溝、すなわちパネルラインは太く浅くなるというわけだ。
話が数千台を製造するダイキャスト製品となると、さらに型の耐久性を上げる必要が大きくなり、その上、硬いダイキャスト製ボディを金属製の型から引き?がしやすくするために、型側の隔壁は太く背が低くなっていき、モデル側のパネルラインは曖昧なものになっていく。しかし、ひとつの型でたくさんのモデルが製造できるので、製造コストも下がり製品は安くなるというメリットもあり、一概に何が良くて何が悪いとは言えないのがモデルカー趣味の奥深さでもある。
メイクアップのモデルは、アルミの削り出しで真円性を追求したリムに、ピアスボルトを再現するためのステンレス製エッチングパーツ、真鍮切削原型をホワイトメタル鋳造部品に置き換えたスポーク/ディスク部分と、ホイールだけでも3種類のマテリアルを組み合わるこだわりよう。その奥に覗く穴開きのブレーキローターや赤いブレーキキャリパーも実車さながらの質感を見せる。量産型のミニカーでは難しい絶妙な車高やキャンバー角表現にも注目して欲しい。
灯火類もヘッドライトにはクロームメッキをかけたホワイトメタル製鋳造部品を奢るなど、兎にも角にもリアリティの追求に余念が無い。写真で見る限りは「へー、そうなんだ」くらいのものだが、最後に断っておけば、このモデルの全長、10cmにも満たない、実車の1/43なのである。1台のお値段は¥31,900(税込)となるが、実物を目の当たりにすれば、ミニカーに興味の無い方が見ても、きっと只物ならぬ“良いもの感”が伝わってくるはずだ。全8色、悩みに悩んでお気に入りの1台をチョイスして欲しい。








【メイクアップ】ポルシェ911GT2商品ページ
=[https://www.makeupcoltd.co.jp/products/detail/1767]
https://www.makeupcoltd.co.jp/products/detail/1768

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