10分で解説! ルノー・メガーヌR.S.を振り返る

2023年、惜しまれつつ約20年の歴史に幕を閉じたルノー・メガーヌR.S.。Cセグメント・スポーツハッチのベンチマークとして君臨した3世代の歩みを、ここで改めて振り返ってみたい。
その前に、母体となるルノー・スポールについて触れておこう。1976年に設立されたルノー・スポールは、ルノーのモータースポーツ部門としてF1、ル・マン、WRCといったトップカテゴリーから、ワンメイクレースのようなグラスルーツ活動まで幅広く手がけてきた。ロードカー開発に本格的に関わったのは1980年、WRCホモロゲーションモデルとして誕生した「ルノー5ターボ」からだ。FFのルノー5をミッドシップ化するという画期的な設計は、当時の常識を覆すエポックメイキングな存在だった。
以降、モータースポーツで培った知見とノウハウは市販車へとフィードバックされ、クリオ・ウィリアムズ、ルノー・スポール・スパイダー、さらにはクリオ・ルノースポールV6といったユニークなモデルを次々に生み出す。そして時代が進むにつれ、トゥインゴ、クリオ、メガーヌといった量産車に「R.S.」グレードが設定され、ルノー・スポールはより身近な存在となった。

第1世代 メガーヌに初めてR.S.のネーミングが与えられる
ルノー・メガーヌに初めてR.S.が設定されたのは2004年。ベースとなったのは2世代目メガーヌで、225psを発生する2リッター直4ターボを搭載していた。当時のスポーツハッチバックは、ハイパワー化に加え、それに見合ったシャシーチューニングを施すのが定石。しかしルノー・スポールはさらに踏み込み、足まわりの構造そのものを変更した。フロントには「ダブルアクシス・ストラット」を採用し、高出力FFでありながら卓越した走行安定性と操縦性を実現したのである。
2008年には123kgの軽量化を果たした「R26.R」が登場。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェで8分16秒90を記録し、当時のFF車最速タイムを更新。これを契機に、各メーカーがしのぎを削る“FFニュル最速合戦”が幕を開けた。


第2世代 正常進化を遂げFF最速ホルダーとして君臨する
2010年、メガーヌR.S.は第2世代へと進化を遂げた。2リッター直4ツインスクロールターボは250psを発生し、2014年には265ps、2016年には273psへと段階的に強化。ワイドトレッド化をはじめとするシャシー改良も加えられた。さらに、スロットルレスポンスやESPなど電子制御を最適化する「R.S.ダイナミックマネジメント」を新採用。ベースとなるスポーツシャシーに加え、よりハードな「カップシャシー」も用意された。
2011年には熟成を重ねた「トロフィー」がニュルブルクリンクで再びアタックを敢行。従来タイムを9秒以上短縮する8分7秒96を叩き出したことで、FF最速争いはさらに激化していく。2014年にはリアシートを取り払うなど徹底した軽量化を施した「トロフィーR」が登場。7分54秒36を記録し、ついに8分の壁を破ってFF最速の絶対王者に君臨した。


第3世代 4コントロールによる新次元の走りを手に入れる
2018年に第3世代へ進化したメガーヌR.S.は、新たに4輪操舵システム「4コントロール」を搭載。リアタイヤを低速時にはフロントと逆位相に、高速時には同位相とする独自セッティングにより、あらゆる速度域で優れたハンドリングと運動性能を実現した。さらに、ダンパー底部にセカンダリーダンパーを内蔵する「ハイドロリック・コンプレッション・コントロール」を採用。路面からの入力をしなやかに受け止め、快適性とスポーツ性を両立させている。
エンジンは1.8リッター直4ターボで279psを発生。トランスミッションは従来のマニュアルから変更され、6速デュアルクラッチEDCのみが設定された。2019年には軽量化と足まわりの強化を施した「トロフィーR」が追加され、ニュルブルクリンクで7分40秒100を記録。当時のFF車最速の座を奪還した。同年には最高出力を300psに高め、6速MTを組み合わせた「トロフィー」も登場している。
そして2023年、ファイナルモデルとなる「ウルティム」が世界限定1976台で発売。ルノー・スポール設立の1976年にちなんだ台数で、ロサンジュをモチーフにした専用デカールやホイール、レカロ製シート、BOSEサウンドシステムなどを装備し、速さと快適性を兼ね備えた仕上がりとなった。
ルノー・スポールは既にアルピーヌへ統合されたが、その人気はいまも根強い。さらに新型ルーテシア発表の場では、ルノーのスポーツ・ハッチバック復活を示唆する発言もあり、今後の展開に注目が集まる。





